第6回『オレンジリボンたすきリレーを振り返って~つなぐ願い~」

実行委員長 増沢 高

1.6回目を迎えたたすきリレー

6年前になります。「オレンジリボンをたすきにして、あの東京箱根駅伝のようにたすきをつなげて子ども虐待防止をアピールすることはどうだろう。」気の合う仲間で何気なく話した半分冗談の会話でしたが、会話を重ねるうちに本気になり、実現に向けて考えるようになっていました。子ども虐待への対応には、複数の援助者、職種、機関の良質な多分野協働があって初めて可能だということを、この問題に向き合うほどに身に染みて感じるようになっていたことが今思えば大きな理由でした。虐待対応における多分野協働と駅伝のつなげるというイメージが結びついて離れなくなったのです。この「つなぐ」というイメージは、さらには親と子、地域と家族、子どもの今と幸せな未来を結ぶ架け橋のように思えてきました。実現への願いを強くした10数人で実行委員会を立ち上げ、企画の作業に入って行きました。しかし実現までの道は簡単なものではありませんでした。財政面をどうするか、行政機関や各種の協議会から了解を得ること、コースの設定や警察との調整、安全対策、キャンペーン会場の確保、たすきの製作をはじめとした様々な物品の調達など、その全てが思うようには進みませんでした。「なんとか実現したい」という願いとは裏腹に、あきらめの気持ちが何度も心をよぎりました。ただその一方でこの計画を聞きつけた仲間たちが次々と集まり、協力の手を惜しまず、実現に向け力強い後押ししてくれました。当時を振りかえる度に、苦楽を共にしてきた仲間の一人一人に感謝の念を深くします。

「とにかく1年目はたすきをつなぐことだけ考えよう」と、啓発活動としてはかなり地味な1回目となりましたが、100名ほどのランナーが、2日間かけ箱根から東京までたすきをつなぐことができました。

あれから6年、現行のたすきリレーは、当時では想像できなかったほどのイベントへと成長しました。コースは3コース(都心コース、湘南コース、鎌倉・三浦・横須賀コース)へと拡大し、ランナーの数は500名近くになりました。ゴール会場をはじめ中継点のイベントも質・量ともに充実しました。

ゴール会場に出展する啓発ブースの数も数倍になりました。この活動を財政面で支えてくださる企業や団体そして後援してくださる機関や団体も増えました。毎回、ゴール会場では手作りのオレンジリボンを配布していますが、1回目は2千個ほどを有志で作成するのが精いっぱいでしたが、現在は学生や民生委員や主任児童委員等のボランティアの方々が自主的に製作されるようになり、年間2万数千個を用意できるほどになりました。

中でも一番うれしいのは、市区町の行政機関や団体の方々がこの活動に加わり、その輪が広がっていることです。すでに2回目に、虐待防止の啓発が地域に届いていく実感を得る機会を得ることができました。それは湘南コースの6区から7区の中継点である横浜市港南区の永野小学校でした。地域住民の方々が多数グランドに集まり、地域のイベントと共に、中継を皆で盛り上げました。地域の方々が参加している印象の強い中継でした。傍観するよりこうして参加する方が啓発としてはずっと効果があると思いました。ただ見ているより、実際に行動したほうが記憶には残りやすいものです。市民への啓発とはこうあるべきと教えられた2年目でした。4回目からは渋谷区が参加され、都心コースの渋谷駅前ハチ公像からのスタートが実現しました。これも地域の方々の力によるものです。その後二宮町、茅ヶ崎市など参加する自治体が増えていきます。5回目は、鎌倉市、逗子市、横須賀市が参加され、鎌倉高徳院の大仏をスタートする3つ目のコースができました。

子ども虐待防止は、発生予防、早期発見と介入、介入後の支援という3つの段階で対応するのが基本的な考え方です。中でも発生予防、つまり虐待が起きないための予防的な支援が重要となります。そこには子育て支援の充実、リスクを抱える子育て家族への濃密な支援、親になることへの教育など様々な手立てが求められます。その中心的舞台となるのが、身近で支援の手の届きやすい地元地域です。ですから市区町や町内会の方々が子ども虐待防止に関心を持つことは虐待の発生予防に通じていきます。そして今年度も参加する市区町はさらに増えました。三浦市、葉山町、東京都大田区、横浜市磯子鶴見が新たに加わり地元主体のコースや中継所が新設されたのです。

2.三浦コースの新設

今回のたすきリレーの目玉の一つは、三浦コースが新設されたことです。三浦市役所の方々が中心となって、城ケ島からスタートして、マホロバマインズ三浦、京急久里浜駅前商店街を中継して横須賀駅前中央広場で鎌倉からの本コースと合流するという3区間の新コースです。このコースだけで約40名のランナーが走行します。

城ケ島は三浦市に所属し、三浦半島の最南端に位置し、ウミウの生息する緑の島です。1960年に半島と島との間に城ケ島大橋が架けられ、車で往来することができます。近くにはマグロで有名な三崎港もあり、休日は観光客や釣り客でにぎわいます。参加賞に三浦大根が配られることで有名な三浦国際マラソン(ハーフマラソン)が毎年2月に行われますが、三浦海岸をスタートするコースの折り返し地点が大橋を渡ったこの島内にあります。古くは源頼朝が余暇を過ごすために何度も来島し、大正時代の詩人北原白秋はこの地を愛し、家族と共に居を移して多くの詩を残しました。中でも「城ケ島の雨」は有名で、大橋の下にその碑が建てられています。


城ヶ島スタート会場では、
三浦太鼓和太穂の演奏に元気をもらいました
三浦コースのスタートは島内にある灯台入口商店街近くの駐車場です。スタートしてすぐに白秋の碑があり、碑に見守られて次の中継所に向けて走ることになります。当日の朝8時からのスタートセレモニーでは三浦太鼓「和太穂」の皆さんの演奏をバックに9名のランナーがスタートしました。3区間約24キロのコースでタスキをつなぎ、横須賀中央駅前広場を目指します。中継所のマホロバマインズ三浦では宿泊客の暖かい応援をいただき、久里浜駅前商店街では児童養護施設しらかば子どもの家の企画で、道路を通行止めにしてのミニバスケットボール大会の途中でたすきの引継ぎが行われ、試合参加選手や商店会の皆さんなどから大きな声援を受けました。

鎌倉からのコースも昨年と異なるコースができました。昨年は逗子市役所から直接横須賀市に入りましたが、今年は逗子市役所から葉山町の森戸神社で中継することとなりました。森戸神社は森戸川の河口である森戸岬に位置し、太平洋を見渡せる風光明媚な神社です。源頼朝が三島明神の分霊を祭ったという由来があります。森戸神社から森戸海岸に出てすぐに葉山を愛した石原裕次郎記念碑があり、裕次郎ファンが多数訪れる人気スポットです。「裕ちゃんも見守ってくれるんだね」と、知人で大の裕次郎ファンのおばちゃんランナーが、今回の参加にあたって嬉しそうに話していました。また、森戸神社ではビッグハヤママーケットが開催されていて、多くの方に応援をいただきました。

鎌倉からのコースと三浦からのコースが合流する横須賀中央駅前広場は、昨年以上の盛り上がりを見せました。知的障がいのある人とそのお母さんたちで活動されている、アフリカ太鼓「ホンキートンク」の演奏で迎えられるランナーは充実感いっぱいの笑顔でした。鎌倉、三浦、横須賀コースは、鎌倉市の松尾市長、逗子市の平井市長、横須賀市の吉田市長、葉山町の山梨町長も走られ、市民と一緒に子ども虐待防止を訴えました。議員の方のキャンペーン参加や行政の方も多数走られました。市民と行政のトップや議会を担う方々が一つになって虐待防止を呼び掛けることは、とても大きな意義を感じます。それができる日本であることや地域であることに、国民として住民として誇りが湧いてくるのです。鎌倉・三浦・横須賀コースは全11区約70キロを総勢170人のランナーが参加しました。


ハチ公と記念撮影
都心コースも新しい中継所が加わりました。昨年の第5中継所は大田区大森スポーツセンターでしたが、今年は新設の大田区総合体育館となり、大田区あげてのキャンペーンが行われました。今年の6月30日にオープンしたばかりの体育館で、約4千席の観客席を備えた広大な体育館です。また川崎市役所からセブンイレブン浦島町店までの間にも新たに鶴見区役所が中継所として設定されました。中継所が増えたことで、区間の距離が短くなり、その分参加するランナーは走りやすくなったと思います。都心コースは渋谷駅ハチ公前広場で9時からスタートセレモニーが始まりました。桑原区長も来られ挨拶を頂きました。その後、ハチ公銅像維持会涛なみ川かわ副会長、渋谷道玄坂商店街振興組合有馬副理事長とともに、恒例となったハチ公像にオレンジのたすきが掛けられました。9時半に14名のランナーがスタートし、全9区約40キロを総勢約150名のランナーでたすきをつなぎました。東京タワーでは、10時から10組のミュージシャン達がミュージックリレーを開催、また、品川児童相談所でも、ライブリレーなど今年もにぎやかにキャンペーンイベントが行われました。


湘南コースを走るランナーたち
湘南コースは、昨年同様の二宮町にある児童養護施設心泉学園からのスタートと平塚市総合公園からのスタートの2地点スタートとなりました。それぞれのコースはセブンイレブンサザンビーチ店で合流します。心泉学園のスタートセレモニーには坂本町長も来られ、一緒に子ども虐待防止を訴えました。平塚市総合公園では平塚市社会福祉協議会イベント実行委員会主催の福祉フェスティバルのオープニングで障がい者の方も含め多数のランナーが公園内を走りました。湘南コースは全9区約60キロを総勢150名のランナーがたすきをつなぎました。

3.横浜みなとみらい地区「新港中央広場」特設会場


3コースが目指すゴールは、横浜みなとみらい地区「新港中央広場」です。ここは赤レンガ倉庫とショッピングセンター(ワールドポーターズ)の間に位置した広場で、3年前に行われた横浜博覧会の跡地でもあります。ここにステージとブースを設置した特設会場を作りました。

ありがたいことにブースの出展希望も増えたのですが、ブース設置に必須のテントが充分に用意できない状況に困っていました。そんな折、神奈川県にオレンジ色の天幕でできたテント6張りの寄付があったのです。寄付は、神奈川県遊技場協同組合および神奈川県福祉事業協会からでした。6張りで150万円相当の大きな寄付です。それを使わせていただいたおかげで、出展を希望する全て団体のブース展示が可能となりました。救われた気持ちでした。本当に感謝しております。

出展したブースは、神奈川県(児童虐待防止キャンペーン)、横浜市(児童虐待防止キャンペーン)、神奈川県母子福祉協議会(母子生活支援施設の紹介)、おおいそ学園(子ども達が栽培したみかんの配布)、横浜市民生委員児童委員協議会横浜市主任児童委員連絡会(子ども達に綿あめの配布しての虐待防止の呼びかけ)、カンガルーOYAMA(オレンジリボンオブジェの製作コーナー)、全国児童家庭支援センター協議会(児童家庭支援センターの紹介と児童虐待防止の啓発)、資生堂社会福祉事業財団(子育て応援サイト「はぐりぃらぶりぃ」の紹介や記念グッツ配布など)エキスパートチャリティアソシエーション(風船の配布と児童養護施設をはじめとする様々な支援事業の紹介)、セブン-イレブン・ジャパン(子ども達への絵本の読み聞かせ)、特定非営利活動法人子どもセンターてんぽ(「てんぽ」の活動の紹介)、NPO法人CROP. -MINORI(社会的養護の子ども達などへの「いるかセラピー」活動の紹介)、神奈川県保険医協会(児童虐待防止の啓発)、学生ボランティア(子どもの遊び場の提供)の全14ブースです。また、東日本大震災サポートプロジェクト・子ども達の未来を祈る企画として昨年誕生した「祈りの『Friendship』キルトたすき」の製作コーナーを今年も設置しました。2cm×7 cm四方の布ピースにメッセージを書き込み、それを1枚60cm×120cmの大きさのキルトに仕立て、さらにそれらをつなげて16mほどの大タスキを作ろうという計画です。このコーナーは東京タワーと鎌倉高徳院(大仏)境内にも設けました。鎌倉の大仏が掛けられる大たすきを作るのが夢の計画です。おそらく後3年はかかりそうです。

会場の前方には4tロングのステージカーを設置しました。ステージカーは「国境なき楽団」の協力があってのものです。国境なき楽団は、学校や被災地などでコンサートを行ったり、発展途上国に楽器を送るなど、音楽を通して心に平和を届ける活動をしている非営利団体です。たすきリレーの趣旨に賛同していただき、ステージカーをはじめ舞台進行など様々な支援をして頂きました。おかげで何もない原っぱに見事なステージを設置でき、それを囲むようにブースがならぶ、美しいレイアウトの特設会場が出来上がりました。


ステージでは、午前10時から児童養護施設幸保愛児園の子ども達で編成された幸保エバーグリーンズによる吹奏楽、ミュージシャンの土田聡子さん、川北愛子さんによるユニット「Puca」のライブ、野毛の大道芸師栗ちゃんと仲間たちのパフォーマンス、歌手成田圭さんのライブ、江戸前ブルースバンド亀若による演奏と続き、最後は国境なき楽団の代表でもある庄野真代さんのライブです。庄野真代さんは、「飛んでイスタンブール」「モンテカルロで乾杯」など70年代後半に一世を風靡したミュージシャンです。庄野真代さんが歌い始めると、この時代に青春時代を過ごした人たちでしょう、吸い寄せられるように会場に集まってきました。歌の持つ力のすごさに感銘しました。

ライブが終わるころには、3コースの最終区のランナーが会場の隣にある、ワールドポーターズ前の広場ですでに合流していました。ここは、桜木町の駅から赤レンガ倉庫などがある新港地区に通じる鉄道廃線跡を利用した遊歩道である汽車道の陸橋を渡ったところの広場です。汽車道は横浜みなとみらい地区の名所の一つで、桜木町から向かうと左手にはランドマークタワー、右前方には赤レンガ倉庫を見ることのできるロマンティックな道で有名です。休日は若いカップルや子どもを連れた家族が多数行き交っています。都心コースのランナーと湘南コースのランナーはまさにここを走ることができたのです。そのおかげで多くの若者や家族に応援してもらえました。

3コースから集まったランナーは総勢60名ほどになりました。合図とともに全員が列をなして特設会場に向かってきます。特設会場に設置されたオレンジのエアゲートがランナーを迎えます。ステージ前にゴールテープが幅20メートルほどに広げられ、ランナーは一度静止した後、大きな歓声と共に全員でテープを切りました。感動の瞬間です。6回目となった今でもこの瞬間に新鮮な感動を抱くのは、ランナーの熱気と充実感あふれる笑顔のおかげなのでしょう。それぞれの区を責任を持ってたすきをつないだランナーの方々全員に感謝!です。

4.たすきリレーの広がり

今年のたすきリレーは10月28日の日曜日に行われました。昨年同様、11月からの児童虐待防止推進月間を呼びかける意味も込めて11月直前としました。前日の27日には滋賀県で、その1週間前には小山市でたすきリレーが行われました。小山市には児童養護施設鎌倉児童ホームの職員とそこで暮らす高校生が参加し、そのたすきを我々のリレーへとつながれました。毎年東京コースの全区を走る東京都児童相談所職員の井上さんは、小山市と滋賀県の両方に参加され、たすきをこちらに引き継いでこられました。そしてゴール後のセレモニーでは、我々のたすきを含め、これらのたすきが、次週行われる岐阜県のたすきリレーに引き継がれました。岐阜県の実行委員長を務める長縄さんは、この引継ぎのために岐阜から来てくださいました。長縄さん、ありがとうございます。こうした人たちのおかげで、たすきは全国へとつながれていくのです。

また、「祈りの『Friendship』キルトたすき」の製作に係わっていただいている勝山さんと荒井さんは、大倉山の喫茶サロンで毎月1回、「オレンジリボンカフェ」を開催、数年はかかるだろう「キルトたすき」の仕上げしながら啓発活動をしているとのこと。それから、渋谷のハチ公前広場からスタートしたことがきっかけで、行政の方からご協力を得て、ハチ公前広場にある電車モニュメント・青ガエルの中やマークシティ4Fクリエーションスクエアしぶやの2か所で、子ども虐待防止パネル展やグッズ配布、オレンジリボンたすきリレーの告知など、2週間から1か月間にわたってのサブイベントも展開できました。たすきリレーを機に様々な啓発活動が、新たに加わり広がり始めたのもこの数年間の変化です。

毎年のことですが、たすきリレーが終わると、虚脱感からの無気力状態で何日かが過ぎてしまいます。数日後、ぼーっとした頭で、何気なくパソコンのインターネットを眺めていると、たすきリレーを話題にしたブログが、例年以上に増えていることに気づきました。ブログの発信者は、参加された議員の方やミュージシャンの方々をはじめ、広報してくださったメディア、ランナーとして参加された一般市民の方などです。ざっと目を通しただけで十数名の方のブログが見つかりました。これはとても嬉しいことです。イベントだけでの啓発は限界があります。インターネット上のブログやフェイスブックなどで少しでもこの活動に触れてもらい、話題が広がればそれは大きな啓発へと広がると、改めて気づかされました。参加された方、ランナーとして走られた方、ぜひ今からでもネット上でつぶやいていただけたらと思います。多くの人たちの会話の中に、虐待防止と子どもの明るい未来についての話題が増えていくことを願います。

もう一つ嬉しいことがあります。一般の市民マラソンに、子ども虐待防止オレンジリボンたすきリレーの専用Tシャツを着用して参加されるランナーが増えてきたことです。中には「たすきを着けて走りたいからたすきを貸してほしい」という問い合わせも増えました。我々にとっては大歓迎のオーダーです。これから市民マラソンに参加予定の皆さんもぜひ、と願います。

たすきリレーがイベント当日だけでなく、様々な場面で目に触れ、話題になることで、心のたすきが多くの人々につながれていきます。子ども達の明るい未来を願う気持ちと共に。

子ども虐待防止オレンジリボンたすきリレー実行委員会

トップにもどる