たすきリレーと子ども虐待防止のチラシ 昨年は、第1回のオレンジリボンたすきリレーが実施できたこと、ただそのことにひたすら感動し、協力していただいた皆さんに感謝しつつ暮れを迎え、平成19年の幕が開きました。箱根から東京につないだたすきを今年につなぐこと。実行委員会にとって、このことが何よりもの願いとなりました。昨年あった各方面からの貴重な協力が今年も得ることができるだろうか。不安を抱きつつ、達成への願いを初詣にこめました。
この企画は、一部の人間だけでできるものでなく、実施に向けた組織作りがとても重要です。つまり実行委員会をより強力な組織にするということです。年が明けてまず取りかかったことはこのことです。関係する方々に、たすきリレーの主旨を改めて説明し、理解をいただけるようお願いしました。嬉しかったことは、どこにお伺いしても、昨年以上に気持ちよく話を聞いていただき、前向きな支援を約束していただいたことです。児童虐待防止全国ネットワーク、日本子ども家庭総合研究所、神奈川県児童福祉施設協議会、東京都社会福祉協議会児童部会の従事者会、母子生活支援施設協議会、川崎里親会などが正式に実行委員会に加わりました。また、昨年に引き続き後援していただいた厚労省に加え、今年は、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、横須賀市にも後援していただきました。6月以降毎月実施された実行委員会には、神奈川県、横浜市、川崎市の方も、積極的に参加され、実施に向けて様々な援助をいただくことになりました。また昨年のたすきリレーは本当にお金がなく、関係者が持ち寄ったわずかな財源で、なんとか実施したのが実情でした。今年はこども未来財団に共催となっていただき、財政的な援助をしていただきました。このことは大変大きな力となり、実行委員会で出される企画案が、財源的裏付けを得たことで、骨格に、肉がついていくように、具体的なイメージをもって実現の方向に動きだしました。実行委員会は、昨年を凌駕する組織力と実行力を持つことができたのです。
渋谷を走るランナーたち(都心コース)昨年は、たすきリレーの進行に併せ、いくつかの中継ポイントで、リボンや啓発用チラシの配布、和太鼓の演奏などのキャンペーン活動を行いました。今年は、より規模の大きいキャンペーンを、ゴール地点で丸1日行うこととしました。そうなるとゴールをどこにするが極めて重要なポイントとなります。昨年は箱根駅伝に倣って、読売新聞東京本社前にしたのですが、丸1日キャンペーン活動を行うためには、人通りの多い広い場所が必要となります。昨年を振り返ったとき、キャンペーン会場としては一番人が集まり、盛り上がりを見せた横浜みなとみらい地区の日本丸メモリアルパークが候補に挙がりました。しかし、ゴールを横浜にすれば、たすきリレーはどうなるのか。東京につないでいけないではないか。これはまた大問題です。思案の末、箱根からのコース(湘南コース)と東京からのコース(都心コース)を設け、両者が一緒になってゴールするという案が浮かびあがりました。これはコペルニクス的発想の転換でした。10数名ずつの両コースの最終ランナーがゴール地点で出会う。「これはいいね」ということで皆一致しました。実をいうと、この案は、昨年のたすきリレーの後、神奈川県児童福祉施設協議会の副会長である長井先生が私に告げた案でもありました。
みんなそろってたすきをつなぐ(湘南コース)その時には、そうした発想についていけず、「東京につなげなくては駅伝にあらず」と私の硬い頭は反応しなかったのですが、「そうだ、そういえば長井先生がおっしゃっていた」と、このとき思い返し、その柔軟な発想に改めて頭が下がりました。さっそく日本丸メモリアルパークに連絡を取りました。ところが横浜開港150周年を来年に控え、10月から改修工事に入るということで、使用できないことが分かりました。「ゴールがない!」これは、ショックでした。他の会場はないかと、横浜の公園を管理する横浜市環境創造局に相談に伺ったところ、グランモール公園の存在を知りました。ここは、日本丸メモリアルパークと同じ、みなとみらい地区にあり、横浜美術館前の広大なエリアが公園になっているのです。噴水池が2つあり、それを挟んだ空間にステージが設置できそうです。さまざまな条件を確認し、「ここしかない」とすぐに決定しました。
いとしのエリーズ 最高!
オレンジリボンオブジェ制作に参加するご家族ゴールは決定しましたが、この場所は、人の流れはあるものの、あまりに広大なエリアゆえに、催し物に工夫を凝らさないと、人々が立ち止まってくれないのは確実のようでした。この日から、イベントのアイディアが浮かんでは消え、また浮かんではを繰り返しながら、少しずつキャンペーンの中身がかたまっていくという作業が続きました。案はあっても、それを担ってくれる人たちがいなければ何にもなりません。予算にも限りがあり、ステージの設置だけで、そのほとんどが消えてしまいそうです。魅力的で実施可能な企画を組み立てていくこと、これはなかなか大変なことでした。
ステージ以外にも、会場内に複数のテントを張って趣向の異なるブースを設け、キャンペーンを行うこととしました。児童虐待防止全国ネットワークをはじめ、横浜市、川崎市里親会、母子生活支援施設協議会がブースを持つこととなりました。昨年オレンジリボンオブジェを企画したカンガルーOYAMAも、もちろん参加です。また同様に会場を盛り上げていただいた大道芸も、今年は10数名も参加していただけることとなり、パントマイムに加え、オレンジのバルーンアートを子どもたちに配ることとなりました。着ぐるみキャラクターも登場し、子どもたちにも親しみのもてる雰囲気作りを考えました。学生やキワニスクラブの方々がボランティアとして協力していただくことになり、その人数も日を追うごとに増え、最終的には30名を超えました。ステージ上では、BOOZERのヒップホップダンス、土田聡子さんのライブ、夢幻の和太鼓、そしてサザンオールスターズの究極のコピーバンドであるいとしのエリーズのライブ演奏、さらには関東学院マーチングバンド150名によるパフォーマンスなど盛りだくさんの内容になりました。驚くのは、皆ボランティアであるということです。丸1日の長いプログラムで、それを仕切るプロの司会者である築地さんは昨年に引き続きその役を担い、さらには新人タレントの永井さんが、このイベントを聞きつけ、アシスタントとして、プログラムを盛り上げてもらうことになりました。このお二人もまた、ボランティアです。主旨に賛同されて自ら名乗り出ていただいたのです。感謝、感謝、そして感謝です。こうして多数の方々の善意ある協力のおかげで、イベントが魅力あるものへと組み立てられていきました。子ども虐待防止には、さまざまな立場の人たちの連携と協力が不可欠で、オレンジリボンたすきリレーには、こうした協働への呼びかけと、それが実現することへの願いが込められています。昨年も感じたことですが、こうした願いが、準備の過程で、すでに叶い始めているのです。今年もそのことを、強く感じたのでした。
笑顔とともにたすきがつながれていく(湘南コース)都心コースと湘南コースはそれぞれ6区間で設定されました。都心コースは渋谷にある東京都児童会館がスタートで、日比谷公園、泉岳寺、品川区民公園、川崎市役所、鶴見のナイス株式会社とたすきをつなぎ、ゴールのグランモール公園をめざします。昨年に引き続き中継所を快諾していただいた泉岳寺をはじめ、公園、市役所、株式会社と多彩な中継所が並びます。このことも多様な立場の人たちの協働を訴えるオレンジリボンたすきリレーの特徴であり、狙いでもあります。各区を10名ほどのランナーが昨年同様オレンジ色のたすきをかけて走ります。総距離は約50Kmです。湘南コースは小田原にある児童養護施設ゆりかご園をスタートに、エリザベスサンダースホーム、茅ヶ崎ファームと児童養護施設を中継した後、西横浜総合病院、港南ふれあい公園と続き、ゴールを目指します。総距離は約60Kmです。
集まった各区のランナーは、児童養護施設、児童相談所、学校、企業、学生、地域住民の方など、これもまた多彩な方々が集まりました。顔ぶれの多彩さは昨年以上です。こうした取り組みが、多分野協働へと展開している手ごたえを確かに感じました。そして今年はオレンジリボンのマークがはいった揃いのTシャツを着て走ることになりました。
たすきリレーの準備を進めている中、うれしい知らせが飛び込んできました。昨年のオレンジリボンたすきリレーを知って、岐阜県でもたすきリレーを行うために実行委員会が立ち上がり、実施に向け準備に入ったというのです。実は昨年、中心となって進めておられる岐阜県中濃子ども相談センター(児童相談所)の石田所長からお電話をいただき、どうしたら実施できるかの相談を承ったことがあります。そのときは、こちらで使った関係書類の必要と思われる全てお送りし、ぜひ実施して欲しい旨をお伝えしました。それが確実にうごきはじめたということです。大変うれしいと同時に、今年のたすきリレーの実施に向けて、大きな勇気をいただきました。また鳥取県でも、米子児童相談所の松村所長を中心に、オレンジのたすきをかけてパレードを行うことになったということです。
昨年から今年につなごうとしているたすきが、関東から岐阜県や鳥取県にもつながったわけです。実行委員会のメンバーは皆、感慨を持って受け止めました。そしてこうした環がさらに広がっていく願いを抱きました。
雨にもかかわらず、ステージ前は大賑わい
大道芸の皆さんもキャンペーンに協力11月9日、日曜日。この日の天気予報は曇り、雨は降らないものの、かなりの冷え込みが予想されるとのことでした。当日の朝は確かに肌寒く、11月初旬にしては想定外のものでした。8時半を回り、小田原と渋谷のスタート地点では、セレモニーが始まりました。小田原では、神奈川県小田原児童相談所の栗原所長はじめ、多くの方々が集まってこられました。ゆりかご園の子どもたちも応援してくれています。神奈川県保健福祉部こども家庭課の芝山課長はじめ、関係の皆さんのご挨拶を終え、第1区の堀尾ランナー代表の宣誓の後、10名のランナーが園の門から飛び出しました。10人のランナーが同じスタイルで走りますから、とてもインパクトがあります。揃いの白いTシャツにオレンジのたすきが輝いています。あるところでは施設で暮らす子どもたちが、あるところでは病院の患者さんが心をこめて応援してくれます。
東京でも、多くの関係者が集まりました。東京都の児童相談所担当の国吉課長や日本子ども家庭総合研究所の小山部長など、関係の皆さんが挨拶を終え、号砲とともに、ランナーが走り出しました。ランナーには厚生労働省元虐待防止対策室室長の伊原さん、東京都福祉保健局の吉岡部長もいます。渋谷は多くの人たちでにぎわう街で、ランナーの姿は、多くの人々の注目を集めました。
ゴールであるグランモール公園では、ステージやテントの設営も終わり、10時頃にはキャンペーンイベントが始まりました。ステージでは、ヒップホップダンスや歌、和太鼓などの演奏が続き、ステージの外では、大道芸や着ぐるみのキャラクターが通る人たちの関心を集めます。学生やキワニスクラブのボランティアの方々が、リボンを配布します。横浜市のブースは、塗り絵などを行い、子どもたちが大勢集まっています。ランナーの進行状況もステージ横のマップを使って随時伝えられました。
感動のゴール!寒くはあったものの、たすきリレーもキャンペーン活動も順調に進んでいました。ところが午後1時過ぎた頃から、雨がポツリポツリと落ちてきたのです。天気予報は曇りでしたので、すぐに上がるだろうと高を括っていたのですが、雨雲は黒く厚くなっていき、雨が上がる気配はありません。冷たい小雨が降りしきる中、それでもランナーは歩を進めて行きます。周囲からの声援にも元気な声で応えています。
冷たい雨は、キャンペーン会場にも降り注ぎます。これはいくつかのイベントにとって致命的でした。残念だったのは、マーチングバンドです。150名のメンバーが会場に入り、楽器も運ばれたところで、雨が降り始めたのです。雨は管楽器にとって最悪であるし、何より濡れてすべる足場は、演奏者にとってきわめて危険なのです。降り止まない雨をうらみながら、断腸の思いで、中止を決定しました。
すでに午後2時を回っていました。ステージにテントを張ることで、楽器や音響機材は雨から守ることができました。そして、いとしのエリーズの軽快な音楽が流れ始めました。テレビ出演したというほどの、さすがの名演奏で、みるみるステージの前には人だかりができていきます。オレンジリボンたすきリレーのジャンパーを身に着けたスタッフたちも一緒に音楽に合わせて身体を動かしています。キャンペーンも終焉に近づいたこともあり、もうノリノリなのです。
3時半になり、演奏も最終曲に入りました。東京コースのランナーは、すでにグランモール公園内に入り、湘南コースの到着を待っています。「一緒にゴールをする」これが、このイベントに用意された、最高のフィナーレなのです。曲の終わりが近づいたとき、湘南コースのランナーたちが姿を見せました。ステージに向かって、東京コースのランナーたちが右側から、湘南コースのランナーたちが左側から走ってきます。そして、ステージに駆け上がった数十人のランナーは、皆オレンジのたすきを両手で掲げて、一緒にゴールテープを切りました。ランナーの中には、元プロボクサーで東洋チャンピオンだった坂本選手の姿もありました。
オレンジ色に輝くたすきは、去年から今年に、時を越えてつながりました。実行委員会の小林会長から、最終区のランナー一人ひとりに完走賞が手渡されました。寒くて冷たい雨なのに、皆笑顔でした。大切なことを成し得た、そんな満足そうな笑顔でした。日本子ども総研の柳沢所長や虐待防止対策室の杉上室長など、多くの方々のご祝辞をいただき、総合司会の「来年も会いましょう!」の呼びかけとともにフィナーレとなりました。
それから数週間たった今、当日の雨を恨む気持ちが多少残っているものの、昨年以上の盛り上がりを見せたことへの感動と感謝の気持ちが、日に日に強くなっているのを感じています。
私たちの後に行われた岐阜県のたすきリレーと鳥取県のパレードには、こちらのたすきも参加させていただきました。両キャンペーンは見事な成功を収めたそうです。
先日岐阜県で虹センター主催の研修会が開催されました。その際に、石田所長さんが、当日の写真をわざわざ会場まで届けに来てくださいました。大変ありがたく拝見させていただきました。そしてそこにも、やはり多くのランナーたちの笑顔が溢れていたのです。どこで走るランナーもその笑顔の素晴らしさは同じなのです。
たすきの輪は、笑顔の輪として、広がり始めていることを実感しました。
さあ、今度は来年へ、そしてさらに多くの地域へ、たすきとその笑顔をつなぎましょう。